【特別企画】吉川英梨さん(小説家)インタビュー

2020年は、2月に「カドブンノベル」にて『Lの捜査官』連載スタート、3月に書下ろし単行本『ブラッド・ロンダリング』発売、夏には小説推理にて「十三階シリーズ」第4弾の連載スタート、海上保安官を題材とした書下ろし単行本発売……と執筆予定が目白押しの吉川英梨さん。
2008年に「私の結婚に関する予言38」で第3回日本ラブストーリー大賞エンタテインメント特別賞を受賞し小説家デビュー。2014年に弊社と契約してからも、新作の度に期待を大きく上回る作品を刊行し続け、注目を集めています。(聞き手・構成:アップルシード・エージェンシー 栂井理恵)

新宿二丁目を舞台とした警察小説、カドブンノベルにて始動!

KADOKAWA文芸webマガジン「カドブン」(https://kadobun.jp/serialstory/Linvestigator/ )でも連載中

―2月10日発売のカドブンノベルにて、新宿二丁目を舞台にした警察小説『Lの捜査官』が始まりました。

吉川英梨さん(以下、敬称略):レズビアンの女性刑事が活躍する話です。話をリードするのは、女性の新任警部。仕事と家庭の両立に苦しみぬいている、現代女性です。

―時代を切り取る視点ですが、着想はどこから得られましたでしょうか。また、取材はどのように、どの程度行われましたでしょうか。

吉川:レズビアン、LGBTである、というのをひとつの個性として、「刑事」という職業にくっつけた主人公を書いてみたい、というのがきっかけです。ただ、私自身はノンケ、友人知人にLGBTの方がいるわけでもなく、「新宿二丁目」は非常に遠い世界でした。しかも下戸。夜遊び、パーティが苦手で、夜は九時に寝たい(笑)。「夜の街・新宿」の取材は、私にとって非常にハードルが高かったです。いつもは一人で勝手に取材していますが、今回は八割がた、編集者さんに助けてもらいました。今回ほど、編集者さんがついてくれているというありがたみを感じた作品はなかったです。

―本作に関して読者へのメッセージをお願いします。

吉川:読みどころは、現代を生きる女性の「あまりの息苦しさ」をここまでリアルに追及した警察小説はない、ということでしょうか。私自身、現代日本を生きる働く母親ですが、「生まれ変わったらもう二度とこの国で子育てしたくない」というのが本音です。私自身が「救い」がどこにあるのか、作品に問いながら書きました。

―過密スケジュールといってもいい執筆予定ですが、連載原稿はどのように書き進めていらっしゃいますか。

吉川:書下ろし長編と同じですね。連載が始まる前にいっきに書いてしまいます。毎月の締め切りが来たら、一章分を提出する、という感じです。

エージェントに問い合わせた理由は「自分を売り込むのが苦手」

―吉川さんは脚本家を目指して修業しているなかで、2008年に新人賞を受賞してデビュー。
その後、今も続く女性刑事・原麻希シリーズで人気を得ましたが、2014年に弊社にお問い合わせくださいましたね。(それまでの経緯はcakes(https://cakes.mu/series/4165)をご覧ください)その理由をお聞かせくださいますか。

吉川:実は原麻希シリーズは、五作で完結予定でした。五作やっているうちにどこからかオファーが来たらいいなと思っていたんですが、来なかった(笑)。自分を売り込むというのはなによりも苦手。けれど、私は家族の中で家計を担う存在ですので、生活が……という切迫感がありました。夫に養ってもらっていたら、投稿するとか、新たに新人賞に応募するとか、ゆるりとやっていたかな、と思います。

―吉川さんの著作をいくつか拝読しまして大変面白かったので、弊社としては「ぜひ」とエージェントをお引き受けいたしました。
契約後は、同窓会プロデューサーを題材とした連作短編ミステリー、長編ミステリーの企画2本をお預かりして、出版社への営業を始めました。まず、長編ミステリーはすぐに出版社が決まって、その後、『ダナスの幻影』(朝日新聞出版社)として刊行されました。

吉川:懐かしいですね。「はい、お願いします」と出してから、一週間くらいで「打合せです」となり、あっという間に出版が決まりました。神か、と思いましたよ(笑)。

―作風が違うタイプのアイデアを2本お預かりしたのは、吉川さんという作家の幅を見せるためにも良かったと思います。
同窓会プロデューサーのほうはすぐには決まらなかったのですが、私としては「これをネタにして、<吉川英梨>という作家を売りこもう」という気持ちで、様々な出版社に声をかけていきました。そのままは採用されなかったのですが、紹介した幻冬舎や講談社から「吉川さんなら警察小説を書いてほしい」という依頼をいただき、『ハイエナ』(幻冬舎)や『波動 新東京水上警察』(講談社)へとつながりました。

吉川:当時は、ミステリー作家として幅のあるものを書けたら、と思っていました。『ダナスの幻影』はストーカー女から見た殺人事件の話、『葬送学者鬼木場あまね』(のちに『葬送学者R.I.P』と改題して文庫化)は、葬式にまつわるミステリーでした。警察小説は、復活した「原麻希シリーズ」だけでいいと思っていたんです。これ以上警察のなにを書くの、という感じでした。しかし、『ハイエナ』を書いてエンジンがかかりましたね。<警察小説>というジャンルの深さと広がりを身をもって感じ、この世界にもっと潜りたいと覚悟できた一作でした。『波動』が売れたことで認知度も上がり、世間のみなさまから「ここの場所で書いていいんだ」と認めてもらった気がします。

心配事が減って執筆に専念できるようになった

―順調に来ていたものの、さらなる飛躍となったのは、2015~2016年でした。『波動』を読んだKADOKAWAの編集者さんからオファーがあり、「53教場シリーズ」が誕生。同時期に双葉社の編集者さんから「公安を書いてほしい」と熱望され、初連載『十三階の女』がスタート。警察小説ブームという追い風もあり、どんどん活躍の場が増えていきました。

吉川:同時進行で2、3作品手掛けられるようになったことも、活躍の場が広がったひとつの理由と思います。それまでは同時進行ができなかったので。エージェント契約をしたことで、「心配事が減った」というのが、同時進行ができるようになった理由のひとつかと思います。
「仕事が続かなかったらどうしよう」→「エージェントさんが次の仕事を探してくれる」
「いま苦労して書いている原稿がボツになったらどうしよう」→「エージェントさんが別の版元に売り込んでくれる」
こんな感じで、安定した環境で書けていたと思います。

―原麻希シリーズの実績もあってか、吉川さんの場合は、私が当初想定した以上に営業がスムーズにいきました。
とはいえ個人的な反省としては、契約当初は、まだ吉川さんのご希望を適切には汲めてはいなかったと思います。エージェントが作家の目指す方向性、希望する仕事の進め方、公私含めて大切にしていることなどを理解してこそ、良い執筆の場を提供できるものです。そのためには、やはり時間をかけて共に仕事をし、率直なコミュニケーションを取れる関係性を築くことが重要だと、今、改めて感じています。

作家にとって「いまなにが必要か」を共に考え続けていく

―そして、2020年。既に数年先まで執筆予定が埋まっている吉川さんに、弊社がエージェントとして何ができるかを考えまして、小説家としての吉川さんや著作のプロモーションや販促活動に力を入れることにしました。これは、吉川さんと弊社との新しいフェーズと言っていいのではないかと思います。

吉川:長く小説家をやっていくと、その時々で変化は出てきますよね。「いまなにが必要か」というのを共に考え続けて、柔軟に関係性を変えていくのは大切なことと思います。

―出版業界では「作家買い」されることが減ったと言われています。例えば、人気作家であっても、この本は売れてない、新しいシリーズは苦戦しているなどよく聞きます。プロモーションの必要性が増しています。
弊社でも昨年10月に正式にPRチームを立ち上げましたので、今後、吉川さんや著作が露出する機会を増やしていけるように、出版社との連携、マスメディアへの働きかけなど行っていきます。

吉川:よろしくお願いします!

逃れられない「血」の運命から生まれる、濃い人間ドラマの警察小説

河出書房新社から3月中旬発売予定( http://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309028637
試し読みは、web河出(http://web.kawade.co.jp/)にて公開します

―最後に、3月の新刊『ブラッド・ロンダリング』についてお聞かせください。

吉川:現代版「砂の器」でしょうか。警視庁捜査一課の女性刑事が主人公ですが、連続殺人事件は都心のど真ん中から、紀伊山地の秘境へ……。地方の旅情と、加害者家族の過酷な実情を織り交ぜた、切ない警察小説になっています。

―本作は、河出書房新社から出版した『葬送学者R.I.P』の編集者さんに引き続きご担当いただいていますが、『葬送学者……』はもちろん、他の警察小説のシリーズとは少し味わいが違う物語ですね。

吉川:『葬送学者R.I.P』は軽めのミステリーですが、今回は<警察小説>の中でもかなり重い部類じゃないかと思います。刑事たちが事件を解決したときに、あぶり出された彼らのバックグラウンド。これをどう解決するのか。登場人物たちがどう「消化」し、物語としてはどう「昇華」するのか。警察ものというより、味わいとしてはヒューマンドラマに近いです。

―吉川さんの警察小説はもちろん面白いですが、人間の描き方はどんどん深みが増しており、新作のたびに「人間はこうした局面ではこんな行動をするんだ」とか「こんな一面があったとは」と発見があります。
今年は海上保安庁を題材とした小説も刊行予定ですが、警察小説以外の分野でも才能を発揮して、読者を魅了する新しい物語を生み出していっていただきたいと思います。
吉川さんという作家の将来を長く応援していけたらと願っています。今後が楽しみです。引き続き、どうぞよろしくお願いします。

吉川:よろしくお願いします。

吉川英梨(よしかわ・えり)

1977年、埼玉県生まれ。 2008年に「私の結婚に関する予言38」で第3回日本ラブストーリー大賞エンタテインメント特別賞を受賞し作家デビュー。
著書に「女性秘匿捜査官・原麻希」シリーズ、「新東京水上警察」シリーズ、「警 視庁53教場」シリーズ、「十三階の女」シリーズ、『ハイエナ 警視庁捜査二課 本 城仁一』『雨に消えた向日葵』『ダナスの幻影』『葬送学者R.I.P』など多数。
新作の度に期待を大きく上回る作品を刊行し続け、警察小説の新旗手として注目を集めている。
Twitter ID: @yoshikawaeri