「ダイヤの原石を拾い上げるのにIT技術は欠かせない」 

 

 

しゃべり下手なのになぜか説得上手

 

山師である。

 20代の大半を海外放浪に費やす。最初の旅は鹿児島大学の2年生、19歳のとき。本多勝一や沢木耕太郎に耽溺していた少年はどうしても世界を見てみたかった。しかし、資金がない。で、どうしたのか?

「地元の新聞社に”海外放浪記”の連載企画を持ち込みそれが通ってしまった。その約束を担保に両親、知人からカネを借りたんです」

 それで30万円ほど集まった。しかし、まだ足りない。「自分の顔をプリントしたTシャツを後輩や友達に一枚1万ぐらいで売りつけたんです。体育会サッカー部に所属していたんで、言うことを聞く後輩が何人もいたんですよ。原価は1千円。私もひどい男だよなあ(笑)」

 ホントにひどい。鬼塚忠、39歳。出版界、とくに書籍の世界で、最近、急激に売出し中の男である。オシャレにはうるさいが、見た目は「野人」系。作家のエージェント会社「アップルシード・エージェンシー」の社長として、神出鬼没、あちらこちらの出版社やパーティーに顔を出し、ほとんど押し売り的に自らをアピールする。そのくせ、しゃべり下手。が、異様な、そうまさに尋常ではないパワーで相手を説得してしまう。

 作家のエージェントとは聞き慣れない商売だが、いったいどんな仕事なのか?

「たとえば大リーグの選手にはみんな代理人がいますよね? ダン野村とか。選手に代わって、球団とギャラの交渉など、もろもろの世話をする。選手は本業に専念できます。私の仕事はこれの作家版。作家に代わって出版社に企画を売り込んだり、印税の交渉をしたりするわけです。欧米では一般的ですが、日本で本格的に作家エージェントを手がけているのは、おそらくうちだけでしょう」

 2001年に起業し、現在まで約160冊の本をプロデュース。5万部を超えるベストセラーを12作品、そのうちの4冊は10万部を突破。出版界の隠語に「千三つ」という言葉がある。1千冊出してやっと3冊のベストセラーが生まれるということである。そうしたなかで、起業からわずか3年あまりでこの数字は「すごいこと」だと鬼塚氏は胸を張る。しかし、100万部を超えるミリオンセラーがないのが「まだ、ちょっと甘いよね」と語る出版人も多い。そのへんを突っ込むと、「2年以内に必ず出します。その自信がある」と精神論的な答え。今後に期待するしかあるまい。

 仕事内容はわかった。しかし、本連載のテーマはIT業界。鬼塚氏とITの接点は何なのか?

「出版界はIT化がもっとも遅れている業界。私のような出版プロデュース業を行っている人間もいますが、たいてい元編集者。いまだにITに偏見を持っている人間が多い。私は編集者上がりじゃない分、そうした偏見がない。むしろ、率先して業務のIT化に務めています」

 たしかに、彼の会社のHP(www.appleseed.co.jp)を見ると、ウェブ上で作品や企画の募集をしていることがわかる。が、その程度のことはいまどきどこの業界でもやっていることだろう。

「違うんだなあ。HPを見て、ものすごい数の作品や企画の売り込みがあるんですが、そのほとんどが使い物にならないものばかり。玉石混交の文字の渦からダイヤの原石を探し出し、磨き、本というリアルなモノにする。地方の人とはメールで何度もやり取りし、原稿をブラッシュアップしてもらったりと、まさにITあっての仕事なんですよ」

 

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 鬼塚氏とITのつながりはこれだけではない。元来「山師」的性格を持っている彼は、「今の売れ筋はITだ!」といったふうに時流を読み、IT関係者に接近。そして鬼瓦のような顔をくしゃくしゃにした「笑顔」で相手と強引に握手し、いつの間にか本を書かせてしまうのである。

「今や書籍、雑誌とネットの連動は常識です。勢いのあるIT業界の人間たちの本を作れば自社のHP等で勝手に宣伝してくれる。すると本も売れる。そうなれば出版界全体も活気づく。リアル出版が生き残るためにはネットとの連携が必須だと思うんです」。彼の不思議なところは、どんなに大言壮語を吐いても、かっこつけたことを言っても、憎めないというか「こいつならホントに実現しちゃうかも」と人に思わせる雰囲気があるのである。そのへんはライブドアの堀江社長に通じるところがあるかもしれない。

「海外放浪中、イスラエルに数ヶ月いたときがあるんですが、あるユダヤ商人のオヤジと仲よくなって”エビの養殖”を始めようという話になった。私はエビ大好き国家である日本からエビ養殖に関する資料を多数取り寄せ、数週間撤夜でエビの研究に没頭しました。ところが、そのオヤジさんの奥さんと折り合いが合わず、話はお流れに。もし、あのときうまくいっていれば、今ごろイスラエル『エビ王』と言われていたかもしれませんよね(笑)」

 なんだかよくわからないエピソードだが、鬼塚忠という人間をじつによく表わした話だと思う。まさに現代の山師。今のところ結果は出している。