朝 日 新 聞

2005年 928日号 朝刊

 

 

 

ベストセラーの陰に「第三の男」

 

本は著者と出版社の編集者が2人でつくるもの、

というのが出版界の常識だが、もう1人、著者と編集者の間をつなぐ、

「プロデューサー」や「エージェント」

が加わって本をつくるケースが注目されている。

小泉首相の愛読書としても知られるあのベストセラーにも、

こうした「第三の男」がいた。

 

 

著者をカリスマに

 

4年前に「アップルシード・エージェンシー」を立ち上げた、

代表の鬼塚忠さん(40)の仕事も、著者と出版社を結びつけ、

出版をプロデュースすることだ。

 

社員4人で手がけた本は160冊。

テレビドラマ化された『海峡を渡るバイオリン』

(陳昌鉉語り、鬼塚忠・岡山徹聞き書き、河出書房新社)や、

『世界2セールスウーマンの「売れる営業」に変わる本』

(和田裕美著、ダイヤモンド社)などのベストセラーも出し、

「無名の著者をカリスマ化する」(鬼塚さん)ことに成功している。

 

先週は、会計士版「Dr.コトー」の取材で奄美大島へ。

来月は闘牛の「牛主」である女子高生を訪ねて徳之島へと、

全国を飛び回る。

日本の出版社での編集者経験はないが、

欧米作家の翻訳権を扱う事務所で4年間、

働いたことが生きている。

 

「将来は出版社をつくるのか、

と聞かれますが、そんな気はない。

すごい原石を見つけて、すごい企画を立て、

社会に影響を与える、いまの仕事をやりたいだけです。」

 

本を作るだけでなく、作家とコンテンツを開発し、

海外に翻訳権を売ったり、映像化権を売買したりして、

権利を拡大することまで手がける。

 

 

作家からの依頼も

 

 

鬼塚さんと組むのは無名の著者ばかりではない。

作家の赤坂真理さんは鬼塚の著書『ザ・エージェント』を読み、

文化を発信する気概を感じて自らアプローチした。

 

「出版業界の、口約束に出来高払いという方式は、

作家を不安定にしやすい。

だから代理人の必要性は前から感じていた。

私にはメディアミックス志向であり、

組むならビジョンのある人と組みたかった。

『野性時代』(角川書店)11月号から始まる小説『スリーパーズ』

に企画段階から映像化の話があり、

ノウハウのあるプロと組むことが必要だと思った」

 

ほかにも、

著者と出版社の「橋渡し」をビジネスとする動きは出てきている。

彼らの存在は、

現在の出版のシステムに影響を与えるだろうか。

 

評論家の紀田順一郎さんは、

「アメリカの映画界が職能を分化して作品をつくるように、

人材発掘の専門家が才能を探して本をつくるのも、

これからひとつの流れになりうる。

見方を変えれば、既存の出版社が、

新人を発掘する能力が衰えてきたのかもしれませんが」

とみている。