無名ライターの力

売れる本に変える

アップルシード

売り込みの「代理人」

 

(リード)

 

 出版不況が長引く中、本の執筆依頼は必ず売れるベストセラー作家に集中、駆け出しの作家やライターは書く場を失いがちだ。そんななか、無名の書き手の活力を生かしてユニークな手法で本を作ろうという“仕掛け人”が現れた。

 

(本文) 

 

 日本でおそらくただ1社という、ライターの「代理人」を引き受ける会社が、東京・六本木にある。鬼塚忠(37)が社長を務めるアップルシード・エージェンシーだ。代理人とはプロ野球選手の大リーグ移籍交渉などで日本でも知られるようになったが、作家の代理人とは何をするのか――。

 出版社から執筆依頼が来る著名作家を除けば、無名の書き手は、出版社の編集者を相手に自分の出したい本の企画を営業して回る。アップルシードはこの営業業務の代行をはじめ、書き手が原稿を仕上げるまでの作業や、出版後の販促活動などを請け負うのだ。

 「日本では書き手は編集者探しに大変な苦労をしているが、欧米では作家に代理人が付くのは一般的。“営業”の労力は執筆に回した方がいい」と鬼塚は話す。

 2001年5月にアップルシードを創業するまで鬼塚は、海外作品の版権を日本の出版社に売り込む会社で働いていた。社員として鬼塚を支える深澤晴彦(28)は角川書店の元編集者。2人が付き合いのある約50社、100人強の編集者がこの会社の財産。ライターと一緒に企画を練り、付き合いがある編集者らの中から関心をもちそうな人1020人に一斉に、企画書を送る。

 ライター本人が売り込みに歩く場合は、一度に複数の出版社に並行して売り込むのは難しいが、代理人はそこはクールに割り切り「応答があった出版社の中から印税率や初版部数など最も条件のよい所を選べる」と鬼塚。現在、代理人契約をしているのは50人。駆け出しのライターのほか、マスコミの海外支局員、地方在住の作家など営業活動に制約がある人もいる。

 元毎日新聞社会部長で、日本記者クラブ賞受賞者の山本祐司もアップルシードを利用する1人。「特捜警察物語」(講談社)などの著作があるが、86年に脳内出血で右半身不随の障害を負った。昨年山本と知り合った鬼塚は企画書をまとめて編集者に送付。すぐ話がまとまり山本は1月末には「アメリカの正義に惑わされるな」(河出書房新社)を出版、現在は二見書房から出す次作を執筆中だ。

 作品を翻訳し、国内、海外両方で出版することもある。差別と戦いながらバイオリン製作を独学した陳昌鉉の人生をつづった「海峡を渡るバイオリン」(河出書房新社)は昨年9月、日韓で同時発売した。15歳でサーバーレンタル会社を起こした男性の体験記は日本、中国、台湾で発売した。海外出版社との人脈も持つ鬼塚ならではの手法だ。

 2002年には80冊を出版、10万部を超えた作品が1つ、増刷した作品も5冊出た。今年は 100冊を出す予定。ただ鬼塚は「契約者は厳選している」と話す。代理人として受け取る報酬は、最大で作家の取り分の25%。作家への支援の内容によって変わる。今は無名の作家との契約ばかりだが、契約者から売れっ子作家が育てば、将来の見返りは大きくなると考えている。

 

鬼塚忠アップルシード・エージェンシー代表取締役

(東京都港区)