ガイアの夜明け 〜終わりなき挑戦〜

書き下ろし版

 

 

 

Y世代新人作家デビュー

 

東京・多摩川の河川敷。

ソフトボールを楽しむ一団の中に、

鬼塚さんが目をつけた女性がいた。

高橋美夕紀さんは、作家デビューを夢見るY世代の28歳。

一緒にソフトボールをする友人たちは、

実は同性愛者の女性たち。

 

 

新宿2丁目にあったソフトボールチームの仲間だ。

高橋さんは彼女たちをモデルに小説を書いている。

書いては直す日々がもう2年も続いている。

 

 

「私の好きな人は女性なの。

 そう言えたら、どんなに楽しいだろう。

 いっそのこと告白してしまったら・・・・

 突然、そんな衝動が私を襲った。

 ズキン、ズキン、ズキン・・・・・・・」

 

 

この日、高橋さんは鬼塚さんと一緒に原稿の

最終チェックを受けるために講談社に向かった。

ようやく書き上げた作品だか、

編集担当者からは厳しい意見が出た。

 

 

「最初『あなたレズビアンでしょ』って

 ママに突っ込まれるのはいいと思う。

 でも『うん、そうなの』で、

 すぐ次の話にいってします。ここは結構ヤマ場だと思う。

 なのに、ここの心情描写が足りないね。

 小説は他のものと違って書き込めるんだから。」

 

 

高橋さんは編集担当者から、また書き直しを命じられた。

自宅に戻って原稿用紙に向かう高橋さん、

「どうしよう。ぜんぜん考えつかない」。

筆は一向に進まない。

 

 

高橋さんの本業は雑誌のライターだ。

主に女性誌で恋愛コーナーなどを担当している。

だから、書くことはお手のものだと内心思っていたと言う。

しかし、実際に書き始めてみると、

 

 

「フィクションはなんいて難しいんだろう。

 ちょっとまだコツがつかめてないというか。」

 

 

夜、高橋さんが向かったのは新宿。

小説を書くにはもっと人間を知らなくてはならない

と考えた高橋さん、一年前から週に一度、

ゴールデン街のバーで働いている。

 

 

編集者から心理描写が弱いと言われた高橋さん。

原稿を書き直すためにもう一度、

同性愛者の友人を取材する。

 

 

「同性愛者だって気づいたときの気持ちって

 どんなだったの?」

「最初は自分がおかしいのかなと思ったけど。

 自分の中で、人間が好きだからだって解釈して。

 そんなに思い悩むっていう感じじゃない」

 

 

無名の高橋さんを、どうやって売れる作家にするのか。

エージェントの鬼塚さんは、

ある仕掛けを考えていた。

 

 

「通常、文学賞を取らずに新人作家が

 講談社から文芸作品を出版することは、まずありえない。

 新人作家には仕掛けが必要。

 そうじゃないと、なかなか売れないですよね、

 特に文芸作家は」。

 

 

鬼塚さんが考えていたのは、

出版と同時に小説を映画化することだった。

映画関係者と、本の帯に入れる映画の宣伝告知文の

打ち合わせをする。

本と映画で宣伝し合い、相乗効果を狙う。

 

 

書き直した原稿を持って、

高橋さんは鬼塚さんとともに再び編集者のチェックを受ける。

原稿に目を通した編集者は

 

 

「びっくりした。おもしろくなってる。

 前は抽象的な恋愛の話だったけど、ものすごく変わったよね。

 見事だよ。いいじゃん。」

 

 

高橋さん、

 「すごくうれしい」

と笑顔を見せる。

 

 

再取材をして書き直した方力作が、

ようやく決定稿となった。

この日、新人作家・高橋さんのデビューが決まった。

 

 

2月上旬、高橋さんと鬼塚さんのもとに、

刷り上ったばかりの高橋さんの本が届けられた。

本のタイトルは『クールス』。

ソフトボールチームの名前をそのままタイトルにしたのだ。

「2年半かかりました。感慨深いものがありますね」

と鬼塚さん。

 

 

新しい世代が新しい世代のために書いた小説、

出版エージェンシーという新しい出版ビジネスが

生み出した小説が1冊、世に出た。

 

 

(2005年3月15日 「今、本を売りにゆきます」より)