本の雑誌

 

今月の1冊

 

鬼塚忠『ザ・エージェント』(ランダムハウス講談社)は、帯のコピーによると「日本初の『作家のエージェント』が自らの軌跡とノウハウを明かす」本だ。

作家のエージェントといえば、欧米の作家にはなくてはならない存在で、たとえばO・ゴールドスミスの『ザ・ベストセラー』は、エージェントが主役といってもいい出版界内幕小説だし、D・ケネディの『売り込み』にもエージェントの女性が実に格好よく登場するほど。しかし日本では小説に登場するどころか、ほとんどなじみのない職業で、かつてピンポイントという会社が竹本健治や綾辻行人を擁してエージェント業を展開していた例が目立つくらい(つまり帯の「日本初」は間違い。確信犯だろうけど)。英語圏の作家のように広大なマーケットを持たない日本の作家では、マージンで営む代理業は成立し得ないと思われていたのである。

 

ところが、鬼塚率いる「アップルシード・エージェンシー」は立ち上げてから、三年あまりで百六十冊ほどの書籍をプロデュースし、五万部を超えるベストセラーを十二作送り出したという。しかも、そのうち十万部を超えるものが四作。五作が映画化、二作は漫画化、一作がテレビ化されているというから、びっくり。大成功といっていいだろう。

テレビのドキュメンタリーで「中国人案内人」と見た途端、この男は面白いと、歌舞伎町に本人を探しに出かける。「クチコミ」を本にすることを思いついたら、関連の講演や本、サイトをつぶさにあたり、執筆者を探して、ウー・レターを送る。ちなみにウー・レターというのは、欧米のエージェントが目星をつけた作家に送る「求愛の手紙」のこと。実は著者は前職が翻訳エージェントで、その経験を生かしたノウハウなのだ。

 

つまり勘と思い立ったら即実行の行動力、まめにしてこまやかな対応、海外エージェントの手法の採用が、新しいビジネスモデルを成功させたわけだが、それだけではない。

なんと著者は翻訳エージェント時代、一日二十冊の本を読み、読む力と勘を養ったというのである。カバー袖の近影はなんとなくホリエモンを思わせる風貌で、既成のシステムを破壊しそうな予感もさせる。はたして数年後にどうなっているのか、このプロジェクトXの行方が気になるのである。