出版界で日本人初の国内作家のエージェント(代理交渉人)会社を、二〇〇一年に立ち上げたのが、アップルシード・エージェンシー社の鬼塚忠社長だ。海外作家のエージェント会社勤務を経ての起業だった。

「エージェントは、作家と出版社をつなぐ仲介役と誤解される場合がありますが、私はあくまで作家の側の人間です。出版社へ作家を売り込む以外に、原作の映画化権やテレビ放映化権を売り、作家の利益を最大限に増やすのが私の仕事です」

出版社からではなく、彼が管理する作家の印税から、代理交渉んお手数料としてその数パーセントを得る。

「複数の出版社を競わせ、より高い印税率や、より多く出版部数で出版契約を結ぶ交渉も私がします」

創業後の約三年半で、彼がプロデュースした書籍一六〇点中、その七割超が増刷になった。李小牧『歌舞伎町案内人』、陳昌鉉『海峡を渡るバイオリン』、和田裕美『世界No2セールスウーマンの「売れる営業」に変わる本』など、一〇万部を超えるベストセラー四作、五万部を超えるヒット作品は八作という活躍ぶりだ。映画やテレビドラマ化されるものもある。

しかも出版不況下で、彼が手がけた大半が、無名の新人作家の作品という点も特筆に値する。そんな彼が作家のエージェント業について書いたのが本書だ。

彼が作家とどんな関係を築いてきたのかという部分を読むと、無名の作家を売り出す鬼塚流ヒット本製作術の基本は、彼がまず相手に惚れることだとわかる。

「お金儲けよりむしろ、自分が惚れた作家と映画化などを含めて、大きなプロジェクトに挑める喜びのほうが大きい」

惚れると書くと、ビジネスとは対極の考え方と思われがちだ。しかし、会社の部下や取引先との人間関係だけを考えても、相手の短所を嫌うより、長所を好きになったほうがアイデアもふくらみ、エネルギーも湧いてくるものだ。

「私が相手に惚れる要件は、まず、その人柄やキャリア、あるいは書いた文章が私の心に響くかどうか。次に、その人のキャラクターを、本のタイトルになるような一〇文字以内のキャッチ・コピーにできるのか。たとえば、『三〇分で五億円を売った男』とか、無名の作家を売り出すうえでは大切なポイントです」

そして作家の実績や魅力を、社会に必要とされる本に落とし込む作業に関わる。一冊目が出た後は、より長く作家として活躍できるように仕事量を管理し、その長所を磨くための時間的余裕を与えつつ、育てていく。